耐震基準は、建物が地震の震動に耐え得る能力を定めるもので、関東大震災の次の年の1924年(大正13年)に、世界に先駆けて日本で施行されました。
1981年(昭和56年)に耐震基準が大きく改正され、新耐震基準が誕生しました。新耐震基準と旧耐震基準との違いについて、例えば、朝日新聞掲載「キーワード」では以下のようにまとめられています。
新基準では、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく、建物内の人間の安全を確保することに主眼がおかれた。旧基準の震度5程度の地震に耐えうる住宅との規定は、新基準では『震度6強以上の地震で倒れない住宅』と変わった。
旧耐震基準の建物は中地震に耐えるように設計されていましたが、大地震に対するチェックはなされていません(したがって、新耐震基準にあわせた耐震診断が必要となります)。一方で、新耐震基準以降の建物は、中地震に対して損傷しないことに加えて、大地震に対して倒壊しないことや、平面と立面的にバランスよくすること等が要求されています。
耐震基準を正確に説明するのは容易ではありませんが、大まかに言えば、新耐震基準では建物が支える重さの20%以上に相当する水平力を受けても「壊れない」ように決められています。この水平力は、中地震に相当するものです。また大地震については、建物が支える重さの100%以上に相当する水平力を受けても「倒れない」ように決められています。
実は新耐震基準を満たしているから安心とはなりません。熊本地震では耐震補強したばかりの建物が相次いで倒壊し、耐震補強したばかりの庁舎も立ち入り禁止状態になってしまっています。なぜこのような事態になってしまったのか、東京理科大の北村春幸教授(建築構造学)は以下のように指摘しています。
「新耐震基準は1度目の地震に耐えることを前提としており、何度も大きな地震が続くことは想定していない。…最初の地震で損傷し強度が落ちることによって、むち打つように大きく揺れたり、壊れやすくなってしまう」(北村春幸氏)
熊本地震では震度7の揺れが2度続けて起こる初の事例であり、想定外の出来事であったようです。実際4月14日の震度7の地震発生直後に撮影された航空写真をもとにNHKが作成した立体地図では、瓦屋根が落ちるなど被害は出たものの多くの家屋が倒壊を免れています。しかし16日の大地震の直後には建物が次々と倒壊し、熊本県全体では約3400棟が全半壊や一部破損したとみられています。続けて北村春幸氏(前出)は、
「1981年の耐震基準はあくまで最低限の基準と考えた方がいいだろう。家やマンションの購入を検討している人はなるべく免震や制震の対策をした物件を選んだ方がいいかもしれない」(北村春幸氏)
とアドバイスしています。
金物、ボルト、筋交い、構造用合板などを使って壁や柱を強化したり、補強材を入れることで建物自体を地震に耐えうる強度にして振動に抵抗する構造です。建物の強度を高めただけですので地震のエネルギーが直接、建物に伝わることに変わりありません。また揺れを軽減する構造ではないため、家具の転倒や室内での被害は避けられません。現在の建てられているマンションにはこの耐震構造が多くみられます。強い地震が起こるたびに建物自体へのダメージが蓄積され耐震性が落ちていることを忘れないようにしてください。
建物内部に錘(オモリ)やダンパーなどの「制震部材」を設置します。制震部材が地震エネルギーを吸収するため揺れや建物自体への被害を抑えることができます。錘による制振は上階ほど揺れが抑えられるため、高層ビルでよく見られます。風揺れ対策としても非常に有効です。
対してダンパーによる制振は振れを軽減するというより建物自体への損傷を軽減する役割が強いものになります。分譲マンションで採用されることの多い、柱と柱の間に設置する間柱型鋼板ダンパーは、極めて強い揺れが起き、建物の骨格である柱や梁にまでダメージが及ぼうかというときに、鋼板の中間部があたる極軟鋼が変形することで揺れのエネルギーを吸収して建物へのダメージを抑える役割を果たします。従ってダンパーが変形するまでは耐震構造と同じ揺れ方をします。「建物に資産価値の低下につながる恐れのある損傷を免れるための手段」と理解しておきましょう。
建物の下に免震層と呼ばれる積層ゴムなどの装置を介入することにより、建物自体の揺れを大幅に軽減し壊れにくくする構造です。家具の転倒も少なくなり室内での被害を大幅に減少させます。この免震構造では地震の時の揺れを通常の3分の1から5分の1にまで軽減することができると考えられています。導入に当たって免震装置が高価であることが難点です。また縦揺れには効果がないのではないかという見方もあります。
耐震 | 制震 | 免震 | |
---|---|---|---|
家具転倒の可能性 | 高い | 高い | 低い |
躯体損傷の可能性 | 高い | 低い | 極めて低い |
建物の揺れ方 | 地表面の揺れが直接伝わらないため、建物は地面より小さな揺れとなる | 耐震構造に比べ、上階ほど揺れが抑えられるが、地表面よりは小さくならない | 建物の揺れは上階ほど大きくなる |
(出典)
執筆:マイスマ制作チーム
『マイスマ総研』一覧ページへ