不動産契約の際に、面と向かって説明される“重要事項説明”。現在、この制度をIT化しようと、国を挙げて社会実験をしているのが“IT重説”です。これから、IT重説によって私達にどのような影響がでるのでしょうか?IT重説の基本をまとめました。
重要事項の説明には宅地建物取引士の資格が必要
家を買ったりお部屋を借りたりした事のある人は、契約の時に不動産会社の人から書類を広げられて、家や部屋に関することを口に出して説明された経験があるかと思います。その時に使う書類が“重要事項説明書”といい、略して“重説(じゅうせつ)”といいます。
この重説を行う事が出来るのは宅地建物取引士で、これまでは対面して行わなければならないとされていました。
環境さえ整えば遠隔での重説が可能に
その“重説”にも、IT化の流れによって変化が訪れています。これまでアナログ的であった重要事項説明の手順をデジタル化し、非対面の状況でも重説が出来るようにする仕組みの名称をIT重説と言います。IT重説での重要事項説明は、テレビ会議やテレビ電話を使って、遠方の相手にも対応できるようにしたものです。
社会実験を行い問題点や要望を明確に
平成27年8月31日から平成29年1月末まで、IT重説は社会実験として実際に行い、その後協議や検討を重ねて、一般的に広まる流れとなります。社会実験には246の業者で、これまで(2016年10月現在)に500件以上のIT重説が行われています。
不動産契約には、多くのトラブルがついてきます。その多くが説明の行き違いによるもので、購入者は「聞いていない」、販売業者は「確かに言った」と平行線のまま中々解決しないケースも。重要事項説明書は、対面して口に出して内容を読み上げ、購入者に確認の印鑑を押させることで、販売業者側は「あの時確かに説明しましたよね、ホラここにあなたの印鑑も押してある」と言えるようになります。
不動産絡みのトラブルは面倒で厄介なものが多い
これまでは、その説明はやはり対面して直接行うべきだとの事で、必ず面と向かって説明しなければなりませんでした。それがIT化によってどう変わっていくのでしょうか?
例えば北海道から東京に引っ越しをする場合、ネットでいい物件を探す事ができても、結局は契約時に重説を聞くために店舗まで出向かなければならなくなってしまったり、障害を持つ方で移動が困難な方でも対面で行わなければならない等のケースが、IT重説によって便利になります。また、不動産業者の方も、全て遠隔で完結するのであれば、今後はもしかしたら実店舗を構える必要がなくなるかもしれません。
忙しいビジネスマンにも有り難い仕組みに?
また、対面に比べて時間の都合が合わせやすく、不動産会社に赴くよりも自宅や場合によっては職場で行うことが出来るのは大きな効率化になると思います。現在行われている社会実験の途中経過では、IT重説の8割が16時以降に行われているとの事で、夕方以降に非対面で重説を行う事の需要が多いことを示しています。
記録されるメリットの反面、快く思わない人も・・・?
IT重説はネットを介して行われるため、記録が取りやすいというメリットもあります。例えばトラブルが起きた場合に、該当の部分の映像や音声を確認して、ちゃんと伝えたか伝えてないかを把握する事も出来ます。ただ、中には記録を取られる事を嫌に思う人もいると思うので、そういった人にとってはメリットにはならないかも知れませんね。
詳しくない人には環境を整えるだけで一苦労
IT重説はテレビ会議やテレビ電話を用いて行われ、そこには音声と映像が映し出されている必要があります。その環境が整っていない人にとってはIT重説は意味がなく、従来通り対面で重説を行う必要があります。今はまだ社会実験の段階ですが、今後IT重説がメインになってしまった場合、それらの環境がない人は逆に不便に感じてしまう可能性もあります。
テレビ通話に慣れていないとうっかり聴き逃してしまうかも?
ネット通信の場合、回線の不調や遅延など、思わぬトラブルが発生する場合があります。その時に肝心な部分を聴き逃したりしてしまうと、後々問題になってしまうかも知れません。
どうしても対面のほうが安心感があると思われてしまう
対面だと安心・信頼出来るけど、非対面だとどうしても不安だと思う人も中にはいるかと思います。実際にネット回線の不具合などが起こってしまう可能性もあり、対面ほどの安心感は期待できないところもあります。
平成27年8月31日からIT重説の社会実験が行われて、1年が経過しました。
実際にIT重説を受けた方の感想としては、「説明者の表情の確認」「重説の聞き取りやすさ」などの項目でいずれも8~9割が「十分だった」と回答し、重説の理解状況についても9割弱が「十分理解できた」と回答するなど、対面と遜色ないとも取れる結果となっています。
一方で、「今後もIT重説を利用したい」と回答した人は52.2%に留まり、約半数は今後の利用には積極的でない事も見えてきています。準備など手間の問題なのか、信頼性の問題なのかはここからはわかりませんが、今後のIT重説化の流れを作るためには、消費者の不満や不安を解消し、利便性と安全性を伴って進めていく必要がありそうです。
以上のように、これから一般化していくであろう“IT重説”。消費者に便利になる事は間違いありませんが、一方で普及させていくための課題も見えてきつつあるようです。社会実験を終えて検討を重ね、より洗練されて一般化する事を期待します。
執筆:マイスマ制作チーム